オレキシンAの鎮痛作用の作用部位および作用機序に関して検討を行った。鎮痛効果はマウスでtail-flick testを用いて評価した。脳室内投与では、オレキシンAは用量依存性に鎮痛効果を示し、高度の鎮痛効果が得られる容量でも、鎮静やhyperlocomotionなどの副作用は見られなかった。これに対し脊髄くも膜下投与では、オレキシンAは脳室内投与での鎮痛量の30倍量の投与でも鎮痛効果が見られなかった。以上より、オレキシンAの受容体は脊髄を含め中枢神経系に広く存在するが、鎮痛効果は脊髄ではなく、脳内の受容体の活性化によると考えられた。さらに脳内の作用部位を特定するため、特定部位におけるオエキシンAの微量注入を行った。下行性鎮痛系に大きく関与し、オレキシンAの受容体も存在する中脳水道周辺灰白質へのオレキシンAの微量注入では鎮痛効果は認められなかった。今後他の部位への微量注入も行っていく予定である。われわれはこれまでに視床下部のオレキシン産生ニューロンはストレスにより活性化されること、さらにオレキシンAはストレス誘発性鎮痛に関与することを示した。また、ストレス誘発性鎮痛には内因性オピオイドの他に内因性カナビノイドなど多くの神経伝達系が関与することが報告されていることから、オレキシンAの鎮痛効果へのこれらの伝達系の関与を検討した。オレキシンAの脳室内投与による鎮痛効果は、オピオイド受容体、アドレナリンα2受容体、アデノシン1型受容体、セロトニン5-HT1/5-HT2受容体の拮抗薬のいずれにも影響されなかったが、カナビノイド受容体1拮抗薬により減弱した。カナビノイド受容体1拮抗薬は、全身および脊髄くも膜下投与で効果があったが、脳室内投与では効果がなかった。以上より、オレキシンAの鎮痛効果は、脳内のオレキシン受容体の活性化により脊髄において内因性カナビノイドが放出されることを介すると考えられた。
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