がん患者における食思不振に対するオレキシンの効果を検討するため、マウスを用いた抗がん剤による食思不振モデルを作成した。餌摂取量および体重に対する抗がん剤(オキサリプラチン)の用量依存性効果を検討した。高容量では餌摂取量および体重は有意に減少した。このモデルマウスおよび対照マウスにおいて、オレキシンAまたは生食を暗サイクル開始直前に脳室内投与し、暗サイクル中の餌摂取量を測定した。餌摂取量はオレキシンAの用量依存性に増加する傾向を示しているが、現在有意水準に達しておらず、さらに動物数を追加して実験を継続中である。オレキシンの有意な効果が示されれば抗がん剤による食思不振に対する1つの有望な治療法の開発の可能性が出てくる。 本研究のもう一つのテーマであるオレキシンのモルヒネの眠気に対する効果はラットのモデルで検討中である。実験の1週間前に全身麻酔下にラットに脳波電極と脳室内投与用カニューラの植え込みを行い、まずモルヒネ単独の効果を検討した。モルヒネの全身投与により脳波上にslow spindle burstが出現し用量依存性にその数が増加し、高容量では高電位低頻度活動(HVLF)かみられた。次に、ここで確認したモルヒネの脳波および行動量に及ぼす効果に対するオレキシンAの脳室内投与の容量依存性効果を現在検討している。オレキシンがモルヒネによる脳波や行動量に対する効果を減弱することが示されれば、臨床で見られるモルヒネの眠気に対しオレキシンが有効である可能性がある。 前年度に示したオレキシンの鎮痛効果に加え、抗がん剤による食思不振やモルヒネによる眠気に対する効果が示されれば、オレキシン受容体作動薬は緩和医療における有用な症状緩和薬となりうる。
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