研究概要 |
乖離性麻酔薬のケタミンは鎮痛作用を有することが知られている。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体に選択的な内因性リガンドのDセリンをラット第三脳室内に投与し、ホルマリン法にて抗侵害効果について解析した。その結果、1.Dセリンの脳室内投与によって、用量依存的に抗侵害効果が観察され、この効果はDセリンの作用点であるNMDA受容体グリシン結合部位の拮抗薬L-701,324によって拮抗された。2.Dセリンは第1相および第2相のいずれにおいても抗侵害効果が現れた。この効果はL-701,324によって拮抗された。3.Dセリンの抗侵害効果はオピオイド受容体の非選択的拮抗薬ナロキソンによって拮抗された。また、Dセリン鎮痛効果とベンゾジアゼピン受容体との関連性を明らかにする目的として、ミダゾラムをラット第三脳室内に投与し、ホルマリン法にて抗侵害効果について解析した。その結果、1ミダゾラムの脳室内投与によって、用量依存的にhyperalgesiaが観察され、この効果はベンゾジアゼピン受容体拮抗薬フルマゼニルによって拮抗された。2.ミダゾラムはDセリンおよびモルヒネの抗侵害効果を減弱し、この効果はフルマゼニルによって拮抗された。これらの結果より、Dセリンは脳内のNMDA受容体グリシン結合部位を介して、オピオイド受容体を刺激し鎮痛作用を示し、ベンゾジアゼピン受容体と連関していることが示唆された。すなわち、Dセリンは疹痛の下行性抑制系路を亢進し、鎮痛作用を有し、その効果はミダゾラムで拮抗されることが明らかとなった。ケタミン長期投与によるDセリン代謝関連タンパク質の発現解析を行った結果、ラット中脳においてDセリン合成酵素のセリンラセマーゼ(Srr)mRNAの発現量が減少し、Dアミノ酸酸化酵素の(DAO)のmRNA発現量が増加した。これらの変化に伴い行動異常(常同行動など)が観察された。これらの結果は、乖離性麻酔薬のケタミンによる精神症状発現に対するDセリンの機能を解析する上で重要な知見となると考える。
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