平成19年度の基盤研究(C)の補助金に基づく研究にて、癌/組織特異的な「プロモータ制御型ウイルス」を作製するT-BACシステムが完成していた。今回の研究にて、前立腺特異的に抗腫瘍効果を示すT-OC(オステオカルシン)やT-PSES(PSAのカセット)というウイルスの作製に成功した。従来、遺伝子組み込みHSV-1を作製するには、相同組み換えの確率に頼っていたため、1つのウイルスを作製するのに1-2年の歳月を必要としていた。ゲノムが大きいHSV-1の場合、何万という候補ウイルス株のスクリーニングと選択、精製、分子細胞レベルの確認など多大の労力を必要としたからである。相同組み換えに頼っていては、新規のウイルス作製だけで2年ほどの期間を要すると考えられる。しかし、代表研究者が開発したシステムを用いると、組み換え酵素により任意のプロモータが容易に目的のゲノム部位に挿入され、意図した遺伝子組み換えを起こしたもののみを容易に選択できる工夫がなされており、4~5種類の遺伝子組み換えHSV-1を3ヶ月程度で作製することができる。そのため、開発期間の大幅な短縮と、スクリーニングによる良い抗癌ウイルスの選定が可能となる。このT-BACシステムの構築そのものもT-01ウイルスとBACプラスミドの相同組み換えに頼るため、2年ほどの期間を要すると考えられるが、既に構築に成功しているため、今研究ではウイルス作製から開始することができ、大きな利点であった。この利点を利用して、前立腺癌特異的なオステオカルシンプロモータ制御下に抗腫瘍効果を示すT-OC(オステオカルシン)や前立腺特異的なPSAやPSMAプロモータ制御下に抗腫瘍効果を示すT-PSESのウイルスの作製に成功した。サザンプロット法にて目的の遺伝子が挿入されていることを確認した。さらに、ウエスタンブロットにて各プロモータによる目的遺伝子の発現を確認した。これまでの前立腺癌を対象とした経験や材料を生かして、前立腺癌細胞でのin vitroでの殺細胞効果やin vivoでのマウス皮下腫瘍に対する治療効果等の評価を今研究では進める方針である。
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