研究課題
【研究の目的】ウイルス療法はウイルス自体が腫瘍特異的に増殖して腫瘍細胞を死滅させる新しい発想の治療法である。我々が臨床開発を進めてきた第三世代遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のG47Δは、γ34.5とICP6の2つのウイルス遺伝子を改変させた第二世代(G207)から作製された。この二重変異は正常組織での安全性を大きく向上させたが、同時に腫瘍細胞でのウイルス複製能も減弱させた。G47Δは、G207にICP47遺伝子/US11プロモータの変異を加えることにより、γ34.5欠失によるウイルス複製能低下を回復させ、抗腫瘍効果を格段に改善した。本研究では更に、腫瘍細胞に限局してICP6機能を回復させることに着目した。【研究実施状況】これまでの研究にて、癌/組織特異的な「プロモータ制御型ウイルス」を作製するT-BACシステムが完成していた。今回の研究で平成21年度に、前立腺特異的に抗腫瘍効果を示すT-OC(オステオカルシン)やT-PSES(PSAのカセット)というウイルスを作製した。平成22年度では、Southern blot法にて目的の遺伝子が挿入されていることを確認し、さらに、Western blotで、腫瘍細胞に感染したT-OCおよびT-PSESがICP6遺伝子を発現することを確認した。In vitroで、LNCaPヒト前立腺癌細胞やDU145ヒト前立腺癌細胞にT-OCもしくはT-PSESをMOI=0,01で感染させ、増えたウイルスを48時間後回収したところ、T-OCおよびT-PSESは対照ウイルスT-01に比べて有意に高いウイルス複製能を示した。平成23年度では、これまでの前立腺癌を対象とした経験や材料を生かして、in vivoでのマウス皮下腫瘍に対する治療効果等の評価を進めた。T-OCとT-PSESはヒト前立腺癌細胞のDU145,PC-3,LNCaPでは高レベルのICP6発現を認めたもののヒトグリオーマ細胞のU87MGではICP6発現を認めなかった。また、DU145細胞では、T-01(ICP6を欠失した第三世代HSV-1)に対しT-OCとT-PSESは有意に高い複製能を示した。In vivoでは、無胸腺マウスに作製したDU145およびLNCaPの皮下腫瘍にそれぞれT-OC,T-PSESの腫瘍内投与を行った結果、T-01と比較し有意に高い抗腫瘍効果を示した。
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