研究課題
腎癌のうちもっとも頻度の高い淡明細胞型を対象に、転移事象と関連する遺伝子候補をDNAマイクロアレイによる網羅的発現データから粗抽出し、さらに既存の論文報告されている61遺伝子とも比較し、予後との関連が特に強いと考えられる遺伝子42個を選別した。その中からParathyroid hormone like hormone(PTHLH)遺伝子に注目し、解析を進めた。高Ca血症は腎癌、特に進行転移例の予後不良因子の一つとしてよく知られているが、その主原因は腫瘍細胞からのPTHLHの過剰発現・分泌であることが明らかとなっている。一方腎癌は、形態、発生分子機構、臨床病態の異なる複数の腫瘍亜型に細分類されるが、腫瘍亜型別のPTHLHの発現は細かく検討されていなかった。そこで多検体の腎腫瘍型別でのPTHLHの発現をTaqMan probeを用いた定量的real-time PCR法で検出した。その結果PTHLHは、淡明細胞型(n=530)で発現率および発現値が有意に高く、それ以外の乳頭状(37)、嫌色素型(24)、集合管癌(6)、分類不能型(12)、オンコサイトーマ(11)、血管筋脂肪腫(3)および正常腎(34)ではいずれも発現値は低めであった。これらの非淡明細胞型の大部分で血清Ca値も正常域に留まっていたが、淡明細胞型で高Ca血症を呈したものはすべてPTHLHが過剰発現していた。さらに高Ca血症、高PTHLH発現ともに淡明細胞型の予後不良因子であったが、多変量解析ではPTHLHがより強い因子となっていた。以上より、腎癌のparaneoplastic signとして従来特徴づけられてきた「高Ca血症、PTHLH高発現、予後不良」という腫瘍形質は全体の80%を占める淡明細胞型の特性であり、他の非淡明細胞型では予後判定や患者層別化の臨床因子として用いるのは適切でない可能性が強く示唆された。
すべて 2011
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