精子形成にはそれをサポートする周囲の体細胞が必須であることから、in vitro精子形成にも生殖細胞とそれらの周囲の体細胞を元来の関係性を保ちながら培養できる器官培養が有利であると、我々は考えて本研究を開始した。平成21年度に始まる本研究においては、主として器官培養法をもちいて、生後間もないマウス精巣組織片を気体-液体界面において培養した。また精子形成の進行をモニターするために減数分裂特異的にGFPを発現するトランスジェニックマウスを用いて精子形成の進行を簡便にモニターできる系を用いた。さまざまな培養条件を検討した結果、血清の代わりに用いた血清代替物(KSR)が非常に有効であることが判明した。KSRを用いて精巣組織を培養すると、完全な精子形成がin vitroで進行することを発見した。そこで得られた精子から産仔を取ることにも成功し、また凍結保存した組織でも解凍後に精子形成を誘導できることも見出した。この器官培養法を応用して、摘出した精巣に培養精子幹細胞を注入移植し、その組織片を培養する実験を行ったところ、培養精子幹細胞は精細管内に定着し、増殖してさらに精子形成が生じることがわかった。最終的には精子産生にも成功した。得られた精子細胞を用いた顕微授精により産仔も得られた。それらの産仔は正常に成長し、自然交配で次世代も誕生した。
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