研究課題
[目的]卵巣癌は発症率に比して致死率が高く、婦人科癌において最も死亡率の高い悪性腫瘍である。同じ卵巣上皮由来でありながら、多数の組織型が存在し、分子生物学的にも多様であるため、その発癌過程の相違には未知の部分も多い。本研究では高解像度SNPタイピングアレイと発現マイクロアレイ技術を用いて染色体コピー数異常及び遺伝子発現異常を網羅的に解析することにより、いまだ遺伝子背景の不明な部分の多い明細胞腺癌を中心に各組織型に特徴的な発癌のメカニズムを検討した。[方法]対象は卵巣癌の主な組織型である漿液性腺癌、明細胞腺癌、類内膜腺癌を中心とした65例の卵巣癌臨床検体とし、SNPタイピングアレイを用いて網羅的かつ高解像度にアレル別の染色体コピー数異常を解析するとともに、発現アレイを用いて遺伝子発現異常を網羅的に解析した。[成績]SNPタイピングアレイを用いることで、ゲノム全体にわたり網羅的かつ高解像度にアレル別の絶対コピー数推定による染色体増加領域、ホモ欠失領域、LOH領域およびUPP/UPD領域を同定した。ホモ欠失領域は6例9ヵ所、UPD領域は34例141ヶ所に存在しており、正常DNAのコントロールを用いたSNPタイピングアレイがこれらの異常の同定に極めて有効であった。各組織型におけるコピー数異常、発現異常を比較すると、漿液性腺癌では進行期によらず、各シグナル経路の遺伝子群を含めたコピー数異常の程度が強かった。明細胞腺癌ではコピー数異常が少ないものの、異常の多くは腕全域に及んでいた。類内膜腺癌において、早期癌では明細胞腺癌に、進行癌では漿液性腺癌に類似した染色体コピー数異常や発現プロファイルを呈した。[結論]上皮性卵巣癌は同じ卵巣上皮由来でありながら、各組織型によって、特に明細胞腺癌と漿液性腺癌の間において、染色体コピー数異常や遺伝子発現プロファイルが大きく異なることが明らかになった。これは癌の発生過程においても組織型間で相違があることを示唆しており、今後の各組織型特有の治療戦略を検討していく上で有用であると考えられる。
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