妊娠高血圧症候群における脳浮腫および子癇の病態生理を解明するため、雄ラット(4尾)、非妊娠雌ラット(23尾)、妊娠後期雌ラット(14尾)に昇圧剤を投与し、この間の脳の状態を動物実験用MRIにてin vivoで経時的に観察した。血液脳関門に評価にはマンガン造影T1強調画像を、脳浮腫の評価にはT2強調画像を、脳虚血の評価には拡散強調画像を用いて評価した。また昇圧実験終了後は動物を屠殺後、脳を取り出し、血液脳関門の障害をエバンスブルーの漏出で評価、また脳浮腫の程度を脳比重測定により定量的に評価した。麻酔は吸入麻酔より静脈麻酔を、昇圧剤としてはフェニレフリンを用いることで、安定した高血圧を維持することが可能であった。雄ラットでは200mmHgの昇圧により、後頭葉有意の広汎で重篤な脳浮腫、時にくも膜下出血が発生した。非妊娠雌ラットでは200mmHgの昇圧により後頭葉有意の脳浮腫が出現したが、くも膜下出血はなかった。妊娠後期雌ラットでは、同様のプロトコールを用いても血圧の上昇がゆるやかであり、また200mmHg以上の昇圧を達成しても小脳の一部に脳浮腫が発生するのみであった。 脳浮腫・子癇は妊娠高血圧症候群に特有の病態であることから、妊娠がそのリスク因子であることを予測して実験を行ったが、結果的には予想に反し、妊娠は血圧上昇時にも脳浮腫に対して保護的に作用していることが判明した。したがって子癇の発症には単に血圧が上昇することのみではなく、何らかの炎症、血管内皮機能障害が関連している可能性が示唆され、次年度の研究で解明することとした。
|