本研究では低出生体重児の予後改善のために、母体の栄養と胎児発育および出生後の児のメタボリック症候群発症の関連について検討を行った。子宮内胎児発育遅延(IUGR)では胎盤の低形成、血流障害や母体の栄養摂取障害が高頻度に見られ、胎児・胎盤における酸化ストレスの増強が認められる。抗酸化作用を有するチオレドキシンは胎盤や肝臓での発現が知られ、胎児の発育に関与している。一方、チオレドキシンの作用は、その結合蛋白(TBP-2)によって調節されるが、昨年度までの妊娠マウスとその胎仔を用いた検討から、母獣の絶食により母獣肝臓でTBP-2遺伝子発現の増加を認め、胎盤および胎仔肝臓でも発現が増加したことなどから、急性栄養障害の際に母仔の代謝を維持する作用が想定された。さらに、TBP-2遺伝子欠損マウスを用いた検討から、TBP-2が胎仔のインスリン分泌を制御し、血糖値を維持する役割が示唆された。本年度の研究では、ヒト胎盤におけるTBP-2の遺伝子発現について検討した。妊娠初期絨毛では妊娠中期・後期に比べてTBP-2遺伝子発現が有意に低値を示した。妊娠後期の胎盤において、TBP-2はsyncytiotrophoblastでの発現が認められた。妊娠高血圧症候群(PIH)+IUGRの胎盤では、正常およびIUGRのみの胎盤に比べて、TBP-2遺伝子発現が有意に低下していた。また低酸素条件下(1%02)の培養により胎盤のTBP-2遺伝子発現は有意に低下した。これらはTBP-2が正常な妊娠の進行や胎盤内の酸素条件に応じて変動し、またPIHやIUGRの病態形成に関与している可能性を示している。
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