研究概要 |
子宮内膜症はエストロゲン(E2)依存性の慢性炎症性疾患である.内膜症には不明な点が多く,その病態をひとつの因子で一元的に説明することは困難である.私どもは過去3年間(H21-23),内膜症でのLPSとマクロファージMφ)の役割について検討を重ねてきたが,内膜症の病態を説明する仮説として,生得免疫を司るLPSとTLR4を介した「bacterial contamination hypothesis」に至った.内膜症の月経血においては,非内膜症コントロールに比して有意に大腸菌(E.coli)のコンタミネーションが多く,内膜症の月経血あるいは腹水中ではエンドトキシン(LPS)濃度が有意に高いことが認められた(Fertil Steril 2010 ; 94 : 2860-3).また,TLR4を介した内膜症の増殖では,LPSとストレス蛋白であるHsp70との分子クロストークが存在することを見いだした(7^<th> EAOPS Congress,台北,2011).また,LPSとE2が協働的にERおよびTLR4を介してマクロファージが惹起する局所炎症を誘導することを報告した(第55回日本生殖医学会,徳島市,2010).これらは,内膜症の増殖・進展を抑制するためには,エストロゲン作用の抑制のみならず潜在性局所感染の制御が重要であることを示唆している.月経血中へのE.coliのコンタミネーションの原因として,子宮内膜における抗菌性ペプチドの発現を内膜症(n=25)および非内膜症コントロール(n=20)で比較した.子宮内膜でのヒトβ-defensin (HBD)あるいばsecretoty leukocyte protease inhibitor (SLPI)の発現はE2と相関することが認められた.HBDあるいはSLPIのQ-Hスコアは増殖期内膜で高く,月経期や閉経期内膜では低く,分泌期内膜ではその中間であった.これらは,月経期に子宮内膜での免疫防御作用が変化することにより細菌が生着しやすい状況を形成しているものと示唆された(日本エンドメトリオーシス学会シンポジウム,長崎市,2012年1月,で発表した).
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