研究概要 |
哺乳類の胎児は免疫学的には異物であり、免疫学寛容の破綻は流産の原因の一つとなる。しかし、従来行われてきた夫リンパ球による免疫療法はHIVやHCV, HBVなど感染の問題に加えて,治療効果が一定せず、免疫グロブリン大量療法も高価でかつ作用が一定しないことから新たな治療法が希求されている。近年,寄生虫による膠原病や炎症性腸疾患など免疫疾患の治療が脚光を浴びているが、生殖領域での研究は例を見ない。我々は,母子間の免疫応答における寄生虫由来物質の効果を検討した。Imaiらによって、先にクローニングされたDirofilaria immitis(rDiAg)は、ヒト及びマウスにおいて同種間の免疫応答を著しく抑制し、TNF-α,IFN-γなどTh1サイトカインの産生を抑制した。一方では,IL-4, IL-10, TGF-βなどType2、Type3サイトカイン産生は不変、もしくは増強された。末梢血サイトカインの網羅的解析では、IL-17, IL-23がrDiAg処理により有意に低下した。この結果から、寄生虫由来抗原が細胞性免疫を抑制し、妊娠予後を改善する可能性が示唆された。さらに、ヒト末梢血リンパ球を用いた検討ではTLR 4シグナルである大腸菌LPSによって,type1サイトカインであるTNF-αやIFN-γ産生が強く誘導され,IL-2やIL-12などType1のサイトカインはこの反応を増強した。途上国特に農村部では先進国に多い同種免疫による習慣流産は少なく,都市化により増加する。その背景として、アレルギー疾患同様の「衛生仮説」が存在する可能性がある。そのメカニズムとして、Th1優位の免疫環境がLPSなどTLRシグナルによるI子宮内膜リンパ球のFN-γ産生を増強する事実が明らかになった。母体と胎児に加え、常在微生物の果たす役割を検討中である。
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