RCAS1は15種類の悪性腫瘍の独立した予後因子であり、臨床病理因子である進行期、組織型、分化度、腫瘍径、浸潤深度、脈管侵襲、リンパ節転移等とRCAS1発現が有意な相関を示すことが報告されてきた。RCAS1の生物学的活性に関する基礎的研究から、RCAS1がリンパ球を含む免疫担当細胞にアポトーシスを誘導し、腫瘍周囲間質組織に血管新生を含む質的変化を来すことが腫瘍進展に有利な環境を形成することも明らかとなった。これらの研究背景を踏まえ、RCAS1をターゲットとした新たな癌分子標的治療を開発することを目的として本研究を行った。本年度における論文発表を行った研究成果は以下のとおりである。1.卵巣癌におけるRCAS1発現が微小環境に及ぼす影響について:(1)検討した65例のうち47例(72%)にRCAS1発現を認めた。(2)腫瘍細胞でのRCAS1発現に逆相関して間質でのビメンチン陽性細胞数の減少を認めたが、これは子宮頸癌で以前我々が確認した事象と同一であり、異なる癌種においてもRCAS1が間質組織に質的変化を誘導することが確認された。さらに、線維芽細胞株L cellをRCAS1で刺激した際にもビメンチン発現が減弱することがWestern blot法で確認された。2. RCAS1分泌機構に関して:(1)RCAS1はphorbol ester刺激によるPKC-δ pathway、受容体型tyrosine kinaseに増殖因子が結合することで活性化されるRas-MAPK pathway、およびG-protein coupled receptorからシグナルが誘導されるtransactivation pathwayの3種の経路を介して分泌されることを明らかにした。(2)RCAS1はshedding機構により分泌されるが、分泌後に受容体発現標的細胞にアポトーシスを誘導する生物学的活性を獲得することが確認された。以上の知見から、RCAS1が癌治療における新規標的分子となり得ることが示唆された。
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