研究概要 |
子宮内膜に発生する類内膜腺癌にはエストロゲンと癌抑制遺伝子であるPTENの不活化の関与が指摘されているが,両者の関連性については明らかにされていない部分が多い.本年度,この関連性を調べるために,Cre-loxP systemを用いたmurine(m)PTEN遺伝子改変マウスを用いて検討を行った.Murine PTEN遺伝子のexon4,5の両端にloxPを組み込んだPTEN^<flox/flox>マウスにおいて,Cre-loxP systemによって子宮内膜のみにmPTENの発現を欠失させ,エストロゲン曝露の有無による形態学的変化を検討した.すなわち,10週生日に開腹し両側卵巣を摘出したPTEN^<flox/flox>マウス8匹において,子宮内腔にCre発現アデノウイルスベクター(ade-Cre)の注入を行った群(A群),空ベクター(AxCw)を注入した群(コントロール群:B群)と,子宮内腔へのade-Creの注入に加え,17β-estradiol(E_2)持続皮下投与(10μg/kg per day)した群(C群)を作成し,2週間後に子宮を摘出し3群間で組織学的検討を行った.子宮の平均重量はA群で15.3±0.8mg,B群で15.7±0.8mg,C群で95.3±1.5mgであった.組織学的検討では,A群の8匹中7匹(87.5%)において,萎縮した子宮内膜を背景にヒトでみられる子宮内膜異型増殖症から高分化型類内膜腺癌に一致する所見が観察された.一方、B,C群に腫瘍の形成は認められず,B群では萎縮した子宮内膜が,C群では異型のない腺管の増生のみがみられ,A群に有意に腫瘍形成が認められた(P<0.01).この研究により,去勢しE_2の非存在下のマウスにおいて,PTEN遺伝子の不活化のみで腫瘍形成が確認された.本研究において,子宮内膜癌はPTEN不活化後にE_2の低下とともに発症する可能性が示唆され,これは子宮内膜癌がヒトにおいて閉経前後に多く発症することに一致すると考えられた.このモデルマウスを用いることで,2週間という短期間において実験的に子宮内膜癌を作成することが可能となり,今後この実験システムを用いることで子宮内膜癌の新規治療薬の開発が可能となる.
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