バソヒビンはわが国で発見された、血管内皮より産生される唯一の血管新生ネガティブフィードバック調整因子であり、腫瘍血管などの異常血管の新生を特異的に阻害する性質を有する。バソヒビンによる卵巣癌の分子標的・遺伝子治療の開発を目的に基礎研究を行った。まず初めにVEGF-Aを産生する卵巣癌細胞株SKOV-3にバソヒビンを遺伝子導入し、バソヒビン強制発現細胞株(SKOV-3/VASH)を樹立し、in vitro細胞増殖をコントロールと比較した。また、SKOV-3/VASHまたはコントロール株の培養上清を添加した血管内皮細胞の増殖をin vitroで比較した。さらに、SKOV-3/VASHまたはコントロール株をヌードマウス皮下に接種しin vivo腫瘍増殖を比較するとともに、SKOV-3/VASHまたはコントロール株をヌードマウス腹腔内に接種し、腹膜播種、腹水貯留、生存期間を比較した。その結果、SKOV-3/VASHのみバソヒビン蛋白質の発現が認められた。コントロール株とin vitro細胞増殖に差はみられなかった。またSKOV-3/VASHの培養上清を添加した血管内皮細胞の増殖はコントロールに比べて抑制された。これに対して、SKOV-3/VASH皮下腫瘍の増殖はコントロールに比べて有意に遅かった。さらに、コントロール株腹腔内接種マウスは接種後4週頃より急激な腹水貯留がみられ、5週後には全て死亡した。一方、SKOV-3/VASH接種マウスの腹水貯留は緩徐で、有意に長期生存した。これらの結果から、バソヒビンは血管新生を阻害することにより、卵巣癌の増殖、腹膜播種、を抑制し腹膜播種マウスの生存期間を延長させることが示され、バソヒビンによる卵巣癌分子標的・遺伝子治療の可能性が示唆された。
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