【目的】バソヒビン1(VASH1)による卵巣癌の分子標的・遺伝子治療法の開発を目指し、基礎的研究を行った。 【方法】1)VEGFを産生するSHIN-3とPDGFを産生するKOC-2Sの両卵巣癌株にVASH1を遺伝子導入し、強制発現株(SHIN-3/VASH1、KOC-2S/VASH1)を樹立した。これら強制発現株とそれぞれのコントロール株で、以下の項目を比較した。2)in vitro細胞増殖。3)培養上清を添加した血管内皮細胞のin vitro細胞増殖。4)ヌードマウス皮下接種によるin vivo腫瘍増殖および腫瘍内の新生血管数。5)ヌードマウス腹腔内接種による、腹膜播種、腹水貯留、生存期間。【成績】1) SHIN-3/VASH1、KOC-2S/VASH1ではVASH1蛋白質の発現が認められた。2) SHIN-3/VASH1、KOC-2S/VASH1とそれぞれのコントロール株のin vitro細胞増殖に差はみられなかった。3) SHIN-3/VASH1、KOC-2S/VASH1の培養上清を添加した血管内皮細胞の増殖はコントロールに比べて抑制された。4) SHIN-3/VASH1、KOC-2S/VASH1皮下腫瘍の増殖はコントロールに比べて有意に遅く、腫瘍内の新生血管数も有意に少なかった。 5) 両コントロール株腹腔内接種マウスは急激な腹水貯留がみられ、短期間で全て死亡した。一方、SHIN-3/VASH1、KOC-2S/VASH1接種マウスの腹水貯留はコントロールに比べて緩徐で、有意に長期生存した。【意義、方針】VASH1による卵巣癌分子標的・遺伝子治療の可能性が示された。またこの治療法は、VEGFだけでなくPDGFなど異なる血管新生因子を産生する卵巣癌に対しても有効な可能性が示唆された。現在、VASH1を搭載したウイルスベクターを作成し研究を遂行中である。
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