研究概要 |
種々の癌種で報告が相次いでいる癌幹細胞が、抗癌剤多剤耐性能を有している可能性があることに着目し、上皮性卵巣癌における癌幹細胞の同定と白金製剤耐性化機構の解明にむけ研究をしている。近年、膜型のエストロゲン受容体であるGPR30の発現が、上皮性卵巣癌の予後不良因子になるという報告がなされ(Gynecol Oncol,2009:114,465-)、この分子に着目し、GPR30発現ベクターを作成し卵巣癌細胞株(A2780)に遺伝子導入したところ、足場を失い上皮間葉形質転換(EMT)を起こしている可能性が示唆された。またGPR30のアゴニストであるG1を同細胞株に添加したところ、EGFRのリン酸化に引き続きAkt経路の活性化、ひいては細胞増殖能の増加が認められた。また、臨床で得られた病理組織標本を用い、免疫染色を行ない抗癌剤耐性と予後に関する関与について検討している。GPR30発現とEGFR発現を組み合わせることにより有意に予後不良因子(無病生存期間の短縮と生存率の低下)となることが判明した。 以上の事を現在論文作成中である。 さらに、EMTの表面マーカーとして乳癌、膵臓癌で注目されているCD24に着目している。CD24陽性細胞は幹細胞と間葉系細胞の性質を合わせもち、腫瘍形成能にすぐれていることが報告されている(Oncogene28:209, 2009, Stem Celis 27:498, 2009)。また卵巣癌を用いた我々のpreliminaryな検討により、CD24陽性細胞はEMT特異的表現型(E-cadherinの減少、Snail,Slugの増加)を示しており、cisplatin耐性であった。さらにTGFβや1%02低酸素下での培養でSnail発現を増強させるとE-cadherin発現の減弱と、CD24発現の増加と共に基質への浸潤能増加及び間葉系への形態転換を認めた。以上より、CD24は卵巣癌における浸潤・転移に関するEMTマーカーとして利用できる可能性があると考えており、次のプロジェクトの土台を築くことができた。
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