研究概要 |
耳科手術に於いては,術後成績向上を目指し,術式や再建材料・補聴デバイスなどについて,臨床データの解析や摘出側頭骨を用いた各種計測による研究が盛んに行われ,目覚しい成果があげられてきた.しかし,一方では,十分な聴力の改善が得られない患者が依然として存在するのも事実である.これは,各疾患による聴力低下の発生メカニズムが十分に解明されていないことが一因であり,そのメカニズムが不明であるが故に,効率の良い治療が行えないと共に,新たな治療法のアイデア創出も困難なものとなっている.そこで本研究では,コンピュータ上に再現した末梢聴覚器,すなわちVirtual Earにより,従来の臨床研究や標本研究では困難であった聴覚器の機能障害発生機序の解明,および効果的治療法の開発を行う. 22年度は,21年度に構築した内耳モデルの検証をおこなった.モデルの検証は,基底板の特徴周波数分布や,局所的な基底板振動振幅,蝸牛入力インピーダンスなどの各計測結果と,解析結果を比較することにより行った.内耳の各組織の物性値については,一部は既に計測されているものの,未知な部分も多い.これらの未知の物性値は,既存の計測結果と解析結果を比較することにより決定した.これらのモデルを用い,リンパ瘻時の内耳基底板の振動様式,および人工内耳電極挿入時の基底板振動について解析を行った. 更に,聴覚器の感覚細胞である有毛細胞の電気的特性を考慮したサーキットモデルの構築を行い,既存の実験結果と比較を行い,その妥当性を検証した.
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