研究概要 |
本研究では,コンピュータ上に再現した末梢聴覚器,すなわちVirtual Earにより,従来の臨床研究や標本研究では困難であった聴覚器の機能障害発生機序の解明,および効果的治療法の開発を行うことを目的とする. 23年度は,前年度までに構築した外有毛細胞の働きを考慮しないpassiveなモデルを改良し,外有毛細胞の働きを考慮したactiveなモデルを作成した.そして,passiveなモデルとactiveなモデルの挙動を比較し,外有毛細胞の働きが聴力に及ぼす影響を解析した.さらに,他覚的聴力検査法の1つである歪成分耳音響放射に着目し,複合音を入力した場合における蝸牛の挙動を解析したそして,外有毛細胞の働きにより,内有毛細胞が選択的に刺激を受けることで,蝸牛の周波数弁別機能が高くなること,および,外有毛細胞の加振力は,耳音響放射の計測結果より推定可能なことを示した.さらに,内有毛細胞(IHC),外有毛細胞(OHC),血管条,ラセン靭帯内の各細胞に流れるイオンチャネルの電流について,過去のモデルや実験結果と比較し,各イオンチャネルごとにモデル化を行った.臨床応用として,蝸牛へ伝わる音刺激を想定し,IHCお1よびOHCの聴毛の変位量や周波数変化による双方の有毛細胞の膜電位変化や内リンパ液電位の時間応答を解析した.また,細胞間結合(gap junction)の機能が低下した場合を想定し,その時のOHCの膜電位変化や蝸牛内直流電位(EP)の変化を解析した.更に,血管条内の中間細胞に存在するKir4.1チャネル,辺縁細胞に存在するNa^+-K^+ATPaseとNa^+-K^+-C1共輸送体が機能低下した場合を想定し,これらの機能低下による0HC膜電位,およびEPの変化を解析した.その結果,各チャネルの機能低下によりEPが低下し,それにより,OHC,IHCの機能低下が引き起こされることを示した.
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