[目的]ストレスの多い現代社会では、耳鳴を苦痛と感じ生活に支障をきたす耳鳴症患者の数は増加の一途にあり、重篤な精神症状を併発するなど社会的問題も生じている。中でも耳鳴、難聴、めまいを3主徴とするメニエール病はストレス下に発症しやすいため、発症後耳鳴で悩んでいる患者は多い。その原因は内耳水代謝の破綻による内リンパ水腫と考えられているが、詳細に関しては今なお不明で、このようなストレス下に置かれている耳鳴患者を軽減させるためにはメニエール病の根本治療を確立することが急務である。本研究の目的は、ストレスと内リンパ水腫を関連付けることで、メニエール病における新規治療を開発し、耳鳴を軽減することである。 [結果]メニエール病患者の血中でストレスホルモンである抗利尿ホルモン(AVP)が上昇し、内リンパ嚢でV2受容体の発現も高値を示すことをReal-time PCRとWesternblottingにて証明した。このとき、血中AVP値と内リンパ嚢V2受容体発現値とは負の相関を認めた。次にメニエール病患者の内リンパ嚢で、V2受容体関連遺伝子である水チャネル分子、アクアホリン-2(AQP2)の発現が高値を示すことを同様の方法で証明した。さらに、組織培養したヒト内リンパ嚢のAQP2は、AVP曝露時に管腔側から基底膜側へ移動し、forskolin曝露時にも同様の動きを示すことを証明した。一方、V2受容体特異的拮抗薬のOPC31260やプロテイン・キナーゼA(PKA)阻害薬のH-89、KT-5720では、AQP2は逆に管腔側に移動することを証明した。さらに、ヒト培養内リンパ嚢におけるAQP2と初期エンドゾーム抗原(EEA)の免疫2重染色にて、AVP曝露により管腔側から基底膜側に移行したAQP2はエンドゾームに貯蔵されることが分かった。 [総括]今回の結果より、ストレス下で血中AVPが上昇し、内リンパ嚢でV2受容体、cyclic-AMP、PKA、AQP2の活性化が次々に生じ、AQP2は基底膜側へ移動し、エンドゾームに取り込まれ水吸収が低下し、内リンパの吸収低下が生じることがわかった。
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