研究概要 |
本研究の目的は,加齢内耳における熱ショック応答の変化を明らかにし,熱ショック応答を応用した内耳保護療法を老人性難聴の治療の将来的な臨床応用に向けた研究を行うことである。そのため我々は,まず,加齢内耳において熱ショック転写因子(HSF1)がどのような役割を持つのかを明らかにする目的で老人性難聴マウスにおける熱ショック蛋白質の発現について検討した。 野生型マウス,C57BL/6(老人性難聴モデルマウス),DBA/2J(早期老人性難聴モデルマウス)を用いて,2ヶ月齢,8ヶ月齢の段階で聴性脳幹反応(ABR)の測定,内耳組織の免疫組織化学,内耳抽出物を用いたウエスタンブロット解析を行い,内耳の機能,熱ショック蛋白質,熱ショック転写因子の内耳における局在,発現量について検討した。その結果,難聴モデルマウスは,加齢とともに難聴が進行し,内耳感覚細胞の障害が進行した。内耳障害の様式は老人性難聴に類似するものであった。また,加齢に伴い内耳における熱ショック蛋白質の発現が減弱していることが明らかとなった。さらに8か月齢の難聴モデルマウスを強大音に暴露すると,若年時に比べてABRの閾値上昇が大きく,内耳障害も強くなることが明らかになった。この時,内耳における熱ショック応答が減弱しており,加齢内耳の脆弱性の一因として熱ショック応答の減弱が関与していると考えられた。 以上の結果は,加齢に伴う難聴の進行と内耳における熱ショック応答の変化が老人性難聴に強く関わっていることを示唆するものである。結果は国内外の学会で発表し,高い評価を得ることができた。
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