研究概要 |
本研究の目的は,加齢内耳における熱ショック応答の変化を明らかにし,熱ショック応答を応用した内耳保護療法を老人性難聴の治療の将来的な臨床応用に向けた研究を行うことである。そのため我々は,まず,加齢内耳において熱ショック転写因子(HSF1)がどのような役割を持つのかを明らかにする目的で老人性難聴マウスにおける熱ショック蛋白質の発現について検討した。 本年度は,昨年度に続いて,熱ショック転写因子であるHSF1の形質転換動物を用いて,加齢と内耳における熱ショック応答の関係を明らかにした。実験動物として,野生型マウス,HSF1欠損マウス(山口大学第二生化学講座より提供)を使用した。これらのマウスを,8ヶ月まで飼育し,ABR検査,組織学的検査,RNAマイクロアレイによって,熱ショック応答の過剰あるいは減弱した状態が,内耳の加齢性変化にもたらす影響について検討した。 これらのマウスは,加齢と共に聴覚の低下を示し,組織学的には内耳感覚細胞の脱落を示した。本年度は,さらにRNAマイクロアレイの結果を評価した。コントロールマウス,HSFI欠損マウス2匹ずつより得られた4蝸牛をまとめてmRNA抽出し,1つのサンプルとした。両群とも3サンプルを作成し,mRNAの発現について検討した。結果として,熱ショック蛋白質群の遺伝子発現が低下していること,ユビキチン蛋白質の発現が低下していることが,内耳の老化に関係していると判断された。 以上の結果は,加齢に伴う難聴の進行と内耳における熱ショック応答の変化が老人性難聴に強く関わっていることを示唆するものである。結果は国内外の学会で発表し,高い評価を得ることができた。
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