研究概要 |
内耳蝸牛の内有毛細胞は、音による機械的刺激を電気信号に変換することにより、音刺激を聴神経へと伝播する受容器細胞である。内有毛細胞に存在する膜イオン電流の中でも、K電流は細胞静止膜電位の保持、興奮刺激後の再分極(細胞のリセット)に関与しており、細胞生存のために重要な膜イオン電流である。K電流の中で、TEA(tetraethylammollium)感受性を有する速いK電流(Ik,f)は、細胞の素早いリセットに最も関与するため、Ik,f電流の生理学的特性を解明することは、内有毛細胞の生理機能を理解する上で重要なことと考えられる。ところが、これまでliving cellに対して行われてきた電気生理学的研究は、主に室温(20-25℃)にて行われており、ホ乳類の生理的環境である36℃前後での研究は行われておらず生理的な特性を示していなかった。本研究では、内有毛細胞のK電流の温度依存性について、特に36℃での特性について、パッチクランプ法を用いて研究することを目的としている。 昨年度は、Ik,f電流の特徴である不活性化過程について結果を得ることができ、温度依存性の変化を認めた。本年度は、さらに記録を増やし活性化についても変化を見たところ、温度依存性にカイネティクスが変化することを認めた。活性化過程、不活性化過程ともに温度上昇とともに速くなることが確認され、ホ乳類の体温の36℃では、既存の室温の結果よりも速いカリウム電流の惹起とそれに引き続く不活性変化が示唆された。電流の大きさについては、外向き電流、内向き電流ともに温度依存性を認めず、温度変化による変化は認めなかった。最終的に活性化のQ_<10>は1.94、不活性のQ_<10>は3.19となり、不活性化過程の方が活性化より温度依存性が大きいことがわかった。
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