蛋白合成阻害薬の一つであるマクロライド系抗菌薬(ML)は抗菌薬のみならず抗炎症薬として長期に用いられるため、ML耐性菌の出現頻度が高く臨床上問題となっている。 従来の本研究の成果として、臨床由来ML耐性Staphylococcus aureusはML感受性S.aureusに比べ細胞壁が厚いという超微形態的特徴を有することを見出した。そこで本年度は、ML耐性株における細胞壁肥厚の細菌学的意義について明らかにするために、細胞壁合成阻害剤薬による溶菌効果について、ML感受性株およびそれを親株として実験室内で分離できたML耐性株を対象に、β-ラクタム薬の一つであるセフジトレンピボキシル(CDTR-PI)を作用した後の吸光度の減少を経時的に測定することにより、さらにCDTR-PIで処理して惹起される超微形態変化を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察して検討した。その結果、ML耐性分離株はCDTR-PIによりML感受性株と同様に溶菌することが吸光度測定法ならびにTEM観察により明らかとなり、ML耐性S.aureusにおける肥厚化した細胞壁は細胞壁合成阻害薬に対する感受性には直接的には関与しないことが示唆された。 一方、MLと同じ蛋白質合成阻害薬であるゲンタマイシン(GM)に耐性のS.aureusの臨床由来株における超微形態的特徴をTEM観察後、細胞壁を計測して検討したところ、GM感受性7菌株における細胞壁の厚さは19.02±2.72nmであったのに比べ、GM耐性7菌株の細胞壁の厚さは32.24±5.99nmで、GM耐性臨床分離株はGM感受性分離株より有意に細胞壁が肥厚していることが判明した。従来得られたML耐性菌株における細胞壁肥厚という超微形態的知見に加え今回得られた結果から、臨床由来タンパク合成阻害薬耐性S.aureusは細胞壁肥厚という超微形態的特徴を有することが示唆された。
|