近年、種々の遺伝子の新たな発現調節機構として、タンパク質をコードしない機能性RNAであるマイクロRNA(miRNA)が注目されている。miRNAとは19-23塩基の短鎖RNA分子であり、遺伝子発現を翻訳阻害あるいはmRNAの分解で制御している。miRNAは複数の遺伝子を標的とすることが報告されており、その結果、miRNAの発現異常は細胞内におけるタンパク質の撹乱を引き起こし、癌化に重要な役割を担っていることが報告されている。我々はこれまでに頭頸部扁平上皮癌の臨床検体におけるmiRNAの発現プロファイルから癌部で発現抑制されているmiRNAの探索を行った。その結果癌細胞において、miR-133a、miR-133b、miR-1、miR-145、miR-375などのmiRNAの発現が抑制されている事が判明した。そこでこれらmiRNAについて癌抑制遺伝子の機能を有するか否か、細胞増殖抑制能や細胞浸潤抑制能を指標にし、頭頸部扁平上皮癌由来の細胞株を用いて検討を行った。解析の結果、miR-145やmiR-1は細胞の増殖を抑制し、miR-133a、miR-133bは細胞の浸潤を抑制した。本研究により今回見出したmiR-133a、miR-133b、miR-1、miR-145は頭頸部扁平上皮癌の癌抑制遺伝子として機能することが強く示唆された。今後はこれらmiRNAの標的遺伝子を探索し、これら機能性RNAネットワークを明らかにすることにより、頭頸部扁平上皮癌の分子機構の新たな情報が得られるものと考える。
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