2004年のヒトゲノム解読の結果、ヒトゲノム中にはタンパクをコードしない機能性RNAが数多く存在する事が明らかとなった。機能性RNAの中で、僅か19~21塩基の1本鎖RNAであるマイクロRNAは、タンパクコード遺伝子の発現を制御する事から注目されている分子である。申請者は、ヒトゲノム中に存在するマイクロRNA分子にいち早く注目し、2006年からゲノム科学的解析手法をマイクロRNA解析に適応拡大して癌のマイクロRNA研究を開始した。頭頸部扁平上皮癌・癌臨床検体を用いたマイクロRNA解析から、癌細胞で発現変化を認めるマイクロRNAを探索し論文報告を行なった。癌細胞で有意に発現低下を認めるマイクロRNA(miR-1とmiR-133a)に着目し、癌抑制遺伝子としての機能解析を試行した。その結果、これらマイクロRNAを癌細胞に導入する事により、癌細胞の増殖抑制・浸潤抑制を認めた。更にmiR-1は癌細胞のアポトーシスを誘導する事が判明した。マイクロRNAの大きな特徴として、1つのマイクロRNAが複数の遺伝子の発現を制御している事である。そのため細胞内では、タンパクコードRNAと機能性RNAの複雑な分子ネットワークにより正常な遺伝子発現が制御されている事が予想され、この分子ネットワークの破綻が癌の発生や進展に大きく関わることが予想される。そこで本研究で癌抑制機能を有することが判明したmiR-1とmiR-133aについて、これらマイクロRNAが制御するタンパクコード遺伝子の探索を行った。miR-133aの標的遺伝子としてGSTP1およびCaveolin-1が探索された。癌細胞を用いたこれらタンパクコード遺伝子の機能解析から、いずれの遺伝子も癌遺伝子機能を有することが判明した。本研究により、頭頸部扁平上皮癌における癌抑制マイクロRNAとタンパクコード遺伝子のネットワークの一端を解析した。
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