研究概要 |
【はじめに】 頭頸部扁平上皮癌の全生存率と無病生存率を左右する最も重要な因子は頸部リンパ節転移であると報告されている。頸部リンパ節転移は原発部位によって異なるが50~80%と非常に高率である。現在まで原発腫瘍の転移能力を測定する方法はなく、転移抑制遺伝子の解明が必要であると考えられる。そこで今回我々は頭頸部癌における転移を制御する候補遺伝子としてMALファミリー(MAL, MAL2、BENE)について検討を行った。頭頸部扁平上皮癌患者の原発と転移組織における各遺伝子の染色体部位の欠損(LOH : loss of heterogeneity)を解析し転移の有無との関係を検索した。 【方法】 実験材料として31例の転移性頭頸部癌組織および21例の非転移性頭頸部癌組織を使用した。転移性頭頸部癌グループでは正常、原発癌および転移癌組織について,一方で非転移性頭頸部癌グループでは正常と原発癌組織を検索した。各癌組織、正常組織からDNAを抽出し、PCRおよびgene-scanによってLOH分析を行った。 【結果】 MAL2遺伝子のLOHは2つのmicrosatellite markerによって検討した。遺伝子座に25Kbpの距離があるD8s199の頻度は転移性頭頸部癌グループでは50%(原発癌)、55%(転移癌)であったが、非転移性頭頸部癌グループでは17%であり有意差を認めた(p=0.03)。同様にBENEのLOH頻度は転移性頭頸部癌グループでは26%(原発癌)、38%(転移癌)であったが、非転移性頭頸部癌グループでは17%であった。 【考察】 転移腫瘍においてMAL2およびBENE遺伝子座の高頻度なLOHを認めた。特に、MAL2では原発癌、転移癌の両方において非転移性癌群と比べて有意に高頻度のLOHを認めた。以上より、細胞極性に役割を有するMALファミリーは転移抑制に働くと考えられた。
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