研究概要 |
ゲノムに書かれた遺伝情報,つまり遺伝子の塩基配列が変化しないにもかかわらず個体発生や細胞分化の過程において遺伝子発現を制御する現象がエピジェネティックスである。癌におけるエピジェネティックな異常には, DNAメチル化の異常,ヒストン修飾の異常,そしてゲノムインプリンティングの異常などがあげられるが,特定の遺伝子や領域では高度にメチル化されており癌化に寄与していると考えられる。我々はエピジェネティックな変化に注目し、頭頸部癌において高頻度にDNAメチル化されている遺伝子、PGP9.5を同定した。 これまでに治療を行った頭頸部癌患者の生検サンプルからDNAを抽出し、PGP9.5のDNAメチル化を解析した。具体的には抽出したDNAをBisulfite処理すると、非メチル化シトシンはウラシルに変換されるが、メチル化されたシトシン(5-メチルシトシン)は変換されない。その塩基配列の違いを利用してメチル化の有無をPCR(methylation specific PCR、MSP)で検出する。特に本研究ではリアルタイムPCRをもちいたQuantitative MSP(QMSP)にて遺伝子のメチル化の有無、程度を測定する。本法を用いることによりメチル化の定量的な解析を行うことができ、かつ感度、特異度の高い解析が可能となる。対象は、当科にて治療を行った頭頸部癌患者(78例)で、部位別の内訳は下咽頭癌32例、中咽頭癌19例、喉頭癌27例である。すべての症例が放射線治療もしくは化学放射線治療により加療された。PGP9.5のDNAメチル化解析は、生検サンプルから型の如くDNAを抽出し行った。PGP9.5のメチル化は下咽頭癌では18例(56.3%)、中咽頭癌では7例(36.8%)、喉頭癌では14例(51.9%)に検出され、臨床的に悪性度の高い下咽頭癌で最も高頻度に認められた。またp53の遺伝子変異との関連を検討すると、PGP9.5のメチル化とp53の遺伝子変異は逆相関する傾向が認められた。臨床因子との関連では、PGP9.5のmethylation indexは病期が進行するにつて、高い値を示していた。以上のことから、PGP9.5のメチル化と頭頸部癌の悪性度との関連が示唆された。
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