研究概要 |
アデノウイルスベクター(Ad)はrandom integrationがないため安全性が高く、また、導入効率が良いことから、FDAで認可された遺伝子治療の大半を占めている。この一方、遺伝子発現期間が短いなどの欠点もあることからその改良が検討されている。今回Ad血清型5,28,35のHI loopにRGD motif挿入したもの(Ad+)としてないもの(Ad-)を作成し、これらの新しいウイルスベクターの眼内での発現の特性を知るため、まず、Ad35を眼内に硝子体注入・網膜下注入した時、眼内のどのような細胞に親和性があり、どの程度発現するかを、他のウイルスベクターであるAd5およびAd28と比較しながら、GFP遺伝子を導入し組織学的に検索した。また、Luciferase遺伝子を導入し、眼内での発現量を定量的に解析し、他のベクターと比較検討した。その結果、硝子体注入では、すべてのAdにおいて虹彩、角膜内皮、線維柱帯に遺伝子導入したが、特にAd35+では線維柱帯に選択的に発現した。経時的にはAd5はスパイク状に発現し、その後減弱したのに対し、Ad28およびAd35でかなり長期間安定して発現した。網膜下注入では、Ad5-は色素上皮細胞に、Ad5+では視細胞により強く遺伝子導入された。Ad35では色素上皮細胞と視細胞の双方に遺伝子導入を引き起こしたが、Ad28では視細胞のみに遺伝子導入された。以上、Adのgenetic backboneやfiberの構造を変えることで、特異的な細胞を標的にすることは可能であった。これは抗血管新生作用だけでなく、神経保護の観点からも重要な特性と考えられ、Ad5に変わる新たな遺伝子治療の可能性が示された。
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