我々は、これまでの研究で、スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)を用いて初めて計測可能となった黄斑部網膜内層厚が、緑内障の早期診断に有用であることを示してきた。今回、我々は黄斑部網膜内層厚が、正常眼圧緑内障(NTG)の視野進行の予測因子になるかを検討した。対象は初診時未治療のNTG患者で、治療開始前にSD-OCTにて黄斑部網膜内層厚を測定され、かつ標準的自動視野計にて中心視野30度以内の静的量的視野測定が2年以上の経過観察期間に5回以上測定された31例31眼である。視野障害指数である、Mean Deviation(MD)値の経時的スロープが、-0.4dB/年を越える群(進行群:6例6眼)と-0.4dB/年以内の群(非進行群:25例25眼)との間で、初診時眼圧、屈折値、視野障害指数、および網膜内層厚の、平均値、Global Loss Volume(GLV)、Focal Loss Volume(FLV)を比較した。その結果、2群間で初診時の、眼圧、屈折、視野障害指数には有意な差をみとめなかったが、網膜内層厚においては、GLVで有意な差があった(進行群:27.0±10.2%、非進行群:19.1±8.0%、p=0.048)。すなわち、未治療NTG患者での初診時の黄斑部網膜内層厚GLV値が大きいものは、視野進行が早いという結果であった。このことにより、緑内障眼に対する黄斑部網膜内層厚測定は、緑内障の早期診断のみならず、その進行予後を予測できる、すぐれたパラメーターであることが示唆された。
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