研究概要 |
緑内障は、『視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患』と定義されており、本邦における中途失明原因の第1位を占める疾患である。緑内障は網膜神経節細胞(RGC)およびRGCから脳に投射している視神経軸索の変性・脱落を特徴とし、眼圧またはその他の原因により徐々にその変性が進行する。緑内障におけるRGC死は視神経の投射経路である外側膝状体(LGN)神経細胞の経シナプス変性を伴うことが知られている。そこで、本年度ではサル緑内障モデルを用いて、病態の早期におけるLGNの変化をポジトロン断層撮影法(PET: Positron Emission Tomography)により検討し、さらに眼圧上昇に伴う網膜・視神経障害とLGNの組織変化を比較した。緑内障モデルは雄性カニクイザル5頭の片眼の線維柱帯にアルゴンレーザーを照射し、慢性的な高眼圧を誘導することにより作製した。レーザー照射4週目の早期において両側のLGN、特に高眼圧眼と同側において末梢性ベンゾジアゼピン受容体(PBR)リガンドである[^<11>C](R)PK11195の結合活性の有意な増加が認められた(n=4,p<0.05)。病理組織解析により、レーザー照射4週目以降において高眼圧眼から投射を受けているLGNの各層にPBR陽性細胞の強い発現が検出された。一方、正常対側眼から投射を受けているLGNの各層にはPBR陽性細胞はほとんど検出されなかった。同様に、高眼圧眼から投射を受けているLGNの各層にionized calcium- binding adaptermolecule- 1(Iba- 1)陽性活性化ミクログリアおよびglial fibrillary acidic protein(GFAP)陽性活性化アストロサイトが検出された。さらに、Iba-1陽性活性化ミクログリアの一部にPBRが発現していることが認められた。以上より、緑内障の早期のLGNにおいてPBR陽性活性化ミクログリアが増加し、PETによる非侵襲的なPBRイメージングが緑内障の早期診断に有用であることが示唆された。
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