研究概要 |
失明率の高い難治性のぶどう膜網膜炎であるベーチェット病に対して、2007年1月より生物学的製剤である抗TNF-α抗体(インフリキシマブ)が保険適応され、その有効性が報告されている。その一方で、抗TNF-α抗体治療の作用メカニズムについては不明な点が多い。平成21年度から平成23年度にかけて申請者はベーチェット病ぶどう膜網膜炎における抗TNF-α抗体療法の作用機序を明らかにするため、マイクロアレイの手法を用いてインフリキシマブ治療前後の末梢血単核球における網羅的な遺伝子発現解析を施行した。 4例のベーチェット病患者(4例:男性1例、女性3例、21歳-64歳)からインフリキシマブ投与開始前と開始22週間後に末梢血単核球を採取、total RNAを抽出後CodeLink human genome bioarrayにて治療前後の単核球の遺伝子発現量を比較した。 その結果、4例全例で発現が低下したものが8遺伝子:CLEC4E(C-type lectin domain family 4,member E:NM_014358)(complexin 2:NM_001008220),UI-H-DF1-auj-n-04-0-UI.sl NCI-CGAP_DF1:BM991706),ETS2(v-ets erythroblastosis virus E26 oncogene homolog 2:NM-005239),TLR2(BC032464),PLXNC1(plexin C1:AI290473),LHFPL2(lipoma HMGIC fusion partner-like 2:NM_005779),and TPCN2(two pore segment channel 2:NM_139075)、4例全例で発現が上昇したものが1遺伝子KIAA0101(NM_014736)であった。 さらに上記の遺伝子からCLEC4E、ets2、toll-like receptor(TLR)2の発現について定量PCRを行い、マイクロアレイとの関連について検討したところ、CLEC4E、TLR2は全例で発現量が治療前の半分以下に低下、ets2については4例中3例で発現の低下が確認された。またKIAA0101については4例全例で1.5倍以上の発現上昇がみられた。 最近の報告ではCLEC4Eは結核菌の糖脂質(code factor)の受容体として同定され、結核菌に対する感染防御に重要な作用を有することが知られている。またTLR2は細菌や真菌の細胞壁成分を認識し、自然免疫応答に重要な作用をもつことが明らかであることから、感染防御に関与する分子群の発現低下がインフリキシマブによるベーチェット病の眼炎症発作の抑制に関与している可能性が考えられた。
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