ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)はジアシルグリセロール(DG)の代謝を介して細胞内情報伝達に重要な役割を果たす。我々は、DGKアイソザイムの1つであるζ型DGKが核移行シグナルを有し核内に存在し、一過性脳虚血(20分間)により低酸素ストレスを負荷したラット海馬CA1錐体細胞において核から細胞質に移行し再還流後も核内に戻ることはないことを報告してきた。しかし、虚血ストレスにおけるζ型DGKの核外移行に関する詳細なメカニズムおよび機能的意義は未だ不明であるので本研究を企画し種々の実験を行った。 実験では、脳虚血負荷実験をシミュレートするためにラット海馬スライスを用いた酸素グルコース欠乏負荷(oxygen-glucose deprivation : OGD)モデルを施行し、DGKζの細胞内局在の経時的変化を詳細に検討した。DGKζはOGD負荷10分後ではその核外移行は認められないが、その後、通常培養条件下に戻すと60分後には完全に核外へ移行することが明らかとなったことから、10分間のOGD負荷により細胞死カスケードが作動し、ζ型DGKの核外移行が誘導された可能性が示唆された。本年度はさらにグルタミン酸毒性との関連性を検討した。その結果、通常培養条件下においてNMDAを添加するとζ型DGKの核外移行が誘導され、一方OGD負荷時にNMDA受容体を阻害するとζ型DGKの核外移行は認められなくなることが明らかとなった。また、細胞外Ca^<2+>をキレートしOGD負荷を行うとζ型DGKの核外移行は起こらなかった。以上よりζ型DGKの核外移行には、NMDA受容体刺激による細胞外Ca^<2+>の細胞内流入が重要であると考えられた。
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