研究課題
重症感染症は敗血症を引き起こし、その過剰な免疫反応により敗血症性ショックを惹起する。敗血症および敗血症性ショックにより多臓器不全が生じ、主な死因のひとつが心機能低下による心不全である。近年、重症患者の有病率や予後を改善するとの考えのもとにインスリン療法が施行される。しかし集中治療部には大量のインスリン投与を必要とする患者が少なからず存在し、このような患者では、血糖値の日内変動が大きくなるばかりか、低血糖の危険が増す。ここで申請者は核内受容体であるPPARγに注目した。PPARγ活性化には血糖値安定化作用があり、インスリン使用量を減少させることができるだけではなく、抗炎症作用、血管内皮保護作用、微小循環改善作用などにより重症患者の予後を改善する可能性が報告されている。申請者は毛細血管内皮細胞にもPPARγが豊富に発現している事実をつきとめ、その機能について研究を進めてきた。毛細血管内皮細胞の大きな役割は、循環血液中のエネルギー基質を心筋・骨格筋細胞や脂肪細胞に供給することにある。申請者は、毛細血管内皮細胞におけるPPARγの発現に一致して、その標的遺伝子である輸送蛋白FABP4,FAT/CD36やFABP4の類似タンパクであるFABP5も毛細血管内皮細胞に豊富に発現していることを見出た。内皮特異的PPARγノックアウトマウスではFABP4の発現が低下し、心臓における脂肪酸の取り込みが野性型の約60%に低下した。申請者は、このマウスの心臓における毛細血管を介するエネルギー代謝の障害が、敗血症時の心機能や生命予後に影響を及ぼすと予想した。しかしながら、リポポリサッカライド投与により作製された敗血症モデルでは、野生型と内皮特異的PPARγノックアウトマウスで、生存率に有意差を認めなかった。現在、劇的に糖代謝が増加し脂質代謝が減少するFABP4/5ダブルノックアウトマウスを用いて、内皮細胞を介するエネルギー代謝の変化が、敗血症の生命予後や心機能に影響を及ぼすか否か検討中である。
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