研究概要 |
急性肝不全は未だ致命的な疾患の一つであるが、肝不全の重症度をより詳細に発症後早期に判断することで、より適正な治療法の選択が可能となり、さらに救命率の上昇が期待できる。一般に急性臓器不全の細胞障害には酸化ストレスが重要な役割を果たしており、このとき誘導されるhemeoxygenase-1(HO-1)は細胞保護的に働いていることをこれまで申請者らは報告してきた。近年、Bach1は過剰なヘムを感知しHO-1の発現を制御する転写調節因子であることが報告された。本研究ではBach1が急性肝不全のより鋭敏で早期に感知できる酸化ストレスマーカーであることをin vivo、in votro、さらにはひと急性肝不全症例において明らかにする. H.21年度は、ラット四塩化炭素CCl_4モデルおける肝でのBach1の動態とその意義を、cis-Stilbeneoxide(CSO)投与モデル(ヘムは関与しないが酸化ストレスは関与するHO-1誘導モデル)、hemearginate(HA)投与モデル(ヘムは関与するが酸化ストレスのないHO-1誘導モデル)と比較検討した。 [方法]雄性SDラットにCCl_4またはCSOを腹腔内投与、またはHA静注し、経時的に肝臓、血液をサンプリングした。Northern blot法により肝HO-1, Bach1, ヘム合成系律速酵素(非特異型デルタアミノレブリン酸合成酵素ALAS1)mRNAを定量した。肝障害の指標として血清ALT値を測定、さらに酸化ストレスの程度を肝マロンジアルデヒド(MDA)値、還元型グルタチオン(GSH)値により評価した 。 [結果]CCl_4, HA, CSOいずれのモデルも肝にHO-1の強誘導が見られた。Bach1の強誘導が見られたのは強い酸化ストレスを受け、ALAS1が抑制(遊離ヘムの上昇によるnegative feedback)されたCCl_4モデルのみであった。酸化ストレスのないHAモデルではヘムが上昇するためALAS1は抑制されたがBach1はほとんど誘導されなかった。酸化ストレスは受けるがヘムが関与しない(ALAS1の抑制を受けない)CSOモデルではBach1の誘導はほとんど見られなかった。また、Bach1の誘導はALT値と相関関係が見られた。以上の結果をまとめると、Bach1の強誘導が見られたのはヘム依存性酸化ストレスを受けたCCl_4モデルのみであったことから、Bach1が肝障害時のヘム依存性酸化ストレスの指標となりうる可能性が考えられた。また、肝不全発症後早期に誘導されるBach1は肝不全の重症度の早期診断に役立つ可能性が示唆された.
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