研究目的:急性肺傷害は肺胞上皮や肺毛細血管の傷害を契機に高度の炎症反応が進展し、高度の低酸素血症をきたす予後不良の病態である。Vascular endothelial growth factor (VEGF)は肺傷害時に分泌され、肺毛細血管の透過性亢進に関与している。VEGFのレセプターの細胞外ドメインのみをコードする遺伝子を肺内に発現させて、VEGFの作用をdominant negative様式に抑制することによって、肺傷害後の急性炎症をコントロールすることの意義について検討することが本研究の目的である。 21年度研究実施概要:肺毛細血管透過性の亢進した肺傷害動物モデルとして、直接的肺損傷でなく、CLP (Cecal ligation and puncture)後の二次的肺傷害モデルを検討していた。傷害後、24時間でVEGFの抑制効果を評価する実験系においてCLPのみでは肺障害、血管透過性亢進の程度が軽微でありVEGFの果を判定するのは困難な程度であった。そこでCLP後に人工呼吸を加える肺傷害モデル、腸間膜動脈の一時的阻血後再還流による肺傷害モデルについて検討した。後者の阻血再還流モデルの方が傷害の程度が均一であり、VEGFのコントロールによる効果を検討するに適切と考えられた。他者の論文を参考に、上腸間膜動脈根部で阻血後、再還流するモデルを試みたが、侵襲が大きく手術中に死亡する場合が多かった。そこで上腸間膜動脈下流の盲腸流入部付近で阻血する方針とした。阻血1時間、再還流4時間の検体において肺の浮腫を確認した。今後ウイルスベクターによるVEGFレセプター細胞外ドメインの発現が肺浮腫を軽減する効果が認められるか否か検討する。
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