口腔扁平上皮癌におけるケラチン発現異常の原因を探索するため、上皮細胞の分化を制御すると考えられている種々の調節蛋白の発現を、口腔癌で免疫組織学的に検索しケラチンの発現と比較解析した結果、特にNotch1蛋白の発現が上皮異形成、扁平上皮癌ともに病変部でNotch1の発現が著明に減弱していた。Notch1の発現の減弱部位はケラチン13の発現の減弱部位とほぼ一致していた。Notch1の発現の減弱は、パラフィン切片から抽出したタンパクのウェスタン解析および正常口腔上皮と口腔癌細胞のcDNAマイクロアレイ解析結果からも確認された。口腔癌培養細胞で、Notchシグナルを増強あるいは遮断すると、いずれもケラチン発現の変化を起こした。また、Notch1をノックダウンすると細胞の移動性が増加した。なお増殖や接着に関連する因子に変化は見られなかった。ヒト表皮初代培養細胞でNotch1をノックダウンすると、培養癌細胞と同様のケラチンサブタイプの発現の変化がみられた。さらに3次元培養を行うと上皮異形成に似た形態の重層上皮を形成した。これらの結果から、Notch1が扁平上皮細胞の分化の調節に重要な役割を果たし、上皮異形成の病態に関係している可能性が示唆された。この知見は、口腔上皮異形成および口腔扁平上皮癌の病態の理解に重要であるのみでなく、口腔癌の治療法開発への応用のための基礎知識となる点からもたいへん重要である。
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