本研究では三叉神経系の神経損傷によって起こる三叉神経知覚核群でのMAP kinaseの活性化とこれらの痛覚異常への関与を検討している。本年度においては、舌神経の結紮手術を行い、p38およびERK MAP kinaseのリン酸化を免疫組織化学的染色により検討した。その結果、神経損傷後1-14日で手術側の三叉神経知覚核群におけるp38 MAP kinaseのリン酸化が増加し、尾側亜核、吻側亜核および主知覚核でその増加が顕著であること、ERK MAP kinaseのリン酸化は損傷後2時間から1日で増加し、その増加は尾側亜核および吻側亜核で顕著であることが明らかとなった。p38 MAP kinaseのリン酸化はミクログリアに限定され、ERK MAP kinaseのリン酸化はミクログリアとアストログリアで起こっていることが明らかとなった。また、神経損傷後にミクログリアおよびアストログリア自身の活性化も起こっていることが明らかとなった。さらに舌神経損傷後に損傷された神経を低閾値電気刺激によって刺激し、三叉神経知覚核群におけるニューロンの興奮性の変化を検討したところ、吻側亜核においてニューロンの興奮性の変化が起こっていることも明らかとなった。これらの結果から舌神経損傷後に三叉神経知覚核群の各部位でMAP kinaseのシグナル伝達が活性化され、これらの変化が神経損傷後の痛覚異常に関与する可能性が示唆された。なお、これらの研究成果は歯科基礎医学会学術大会において2題発表した。
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