本研究では末梢神経損傷によって起こる中枢神経系でのMAP kinaseの活性化やニューロンの興奮性の変化とこれらの痛覚異常への関与を検討した。昨年度までに、三叉神経系におけるMAP kinaseやグリア細胞の活性化が舌神経損傷後に異なる時間経過で増加することを明らかにしたが、本年度は、末梢神経損傷後に起こるニューロンの興奮性の変化を三叉神経系と脊髄神経系で検討した。三叉神経系を用いた実験では、損傷した神経を刺激する場合と損傷した神経に近接する神経を刺激する場合でそれぞれ異なる様式の興奮性の変化が中枢2次ニューロンで起こっていることが明らかとなった。すなわち損傷した神経では低閾値電気刺激に対する過剰な興奮が吻側亜核で認められ、損傷した神経に近接する神経では高閾値電気刺激に対する過剰な興奮が尾側亜核で認められた。また脊髄神経系を用いた実験では、末梢神経損傷による中枢2次ニューロンの過剰興奮に対するアデノシンA1受容体アゴニスト2-chloro-N(6)-cyclopentyladenosine (CCPA)の末梢投与の効果を検討したところ、CCPAが損傷を受けた周囲の神経の異常な興奮伝達を抑制することで中枢2次ニューロンの過剰興奮が抑制される結果が得られた。なお、これらの研究成果は第34回日本神経科学大会、日本解剖学会第66回中国・四国支部学術集会および第117回日本解剖学会総会・全国学術集会において発表するとともに学術雑誌Experimental Brain Researchに受理された。
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