美味しい食事を楽しむことは生物が生きていく基本的な営みである。私たちは、口腔内を覆っている上皮自体が感覚認識に関わっている感覚器としてとらえ、温度感受性チャネルとして知られているTRPチャネルの機能を口腔上皮細胞において調べた。本年度はマウスでの解析を進めた。ラットで前年度明らかにしたように、マウスにおいてもTRPチャネルファミリーが口腔上皮に発現していることが明らかとなった。しかし、発現様式については、ラットとマウスでは異なるものもあった。例えばTRPA1やTRPV1はラットでは発現が確認できたが、マウスでは非常に少ないあるいは発現がないようであった。マウスにおいても急性単離あるいは初代培養が安定して可能になり、生理学的実験も可能となった。口腔上皮細胞はTRPV3作用薬である2-APB(2-aminoethoxydiphenyl borate)とcarvacrolあるいはTRPV4の作用薬であるGSK1016790Aにより活性化されること、さらにその反応はTRPチャネルの非選択的な拮抗剤であるruthenium redにより阻害されることがホールセルパッチクランプ法による電気生理学的解析あるいはカルシウムイメージングで確認された。さらに、温熱刺激によっても口腔上皮細胞が活性化されることがわかった。この温度応答にはTRPV3およびTRPV4が関与することが示唆された。また面白いことに、口腔内の部位により発現や機能に差があることも推察される結果も得られた。口腔上皮細胞において口腔内環境センサーとしてTRPチャネルが関与しており、特に温度に対して直接反応している結果が得られたことは非常に興味深い。今後は温度によるTRPチャネルの活性化がどのように上皮細胞の維持あるいは増殖や分化と関わっているのかを調べる予定である。
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