研究概要 |
口腔は食物や飲み物などの化学的あるいは物理的など多様な刺激に曝されており、それら刺激を適切に受容することにより私たちの行動が可能になっている。本研究課題では、口腔における感覚受容に口腔上皮が関わっているとの仮説を立て、センサー機能に関わるチャネルであるTRPチャネルの機能的な発現を調べた。特異的抗体を用いた免疫組織化学において、TRPV1,TRPV3,TRPV4口腔上皮細胞に発現していることが確認できた。上皮組織は全体に染色されているわけではなく、細胞の集団が上皮の一部分に集まっている様子が認められた。生理学的な活性を調べることを目的として頬粘膜上皮細胞の急性単離の系を用いてカルシウムイメージングを行ったところ、温度刺激により細胞内カルシウム濃度の上昇がみとめられた。さらに、電気生理学的解析によっても温度刺激により誘発される電流が観察されたことから、口腔上皮細胞が温度感受性を示すことを示すことができた。 上皮細胞が刺激を感受した後に、その情報を伝達するためには神経への何らかの伝達物質が必要となる。そこで、TRPチャネル作用薬で上皮組織を刺激したところ、ATPの放出が確認され、さらにその反応はTRPVの非選択的拮抗剤であるルテニウムレッドで抑制された。以上からATPが上皮からの情報伝達物質の候補と考えられた。本研究課題により、広く口腔を覆っている上皮そのものが刺激に対して応答をしていることが示された。 さらに温度の応答を明らかにすることができたことは、口腔における敏感な感覚に口腔上皮が関わっていることを示唆していると考えている。
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