悪性腫瘍の組織学的構築を研究するには良性腫瘍と対比させる必要があるため、平成22年度は唾液腺腫瘍の中では発生頻度の最も高い良性腫瘍である多形腺腫(PA)について腫瘍幹細胞の検索を行った。PAは平成21年度に検討した腺様嚢胞癌(AdCC)と同様に、組織学的に腫瘍性筋上皮細胞と腺上皮細胞の判別が容易である。方法として、主にCD44を腫瘍幹細胞のマーカーとし、ホルマリン固定パラフィン包埋されたPA30例に免疫染色を施した。PAの充実性の部分でCD44陽性細胞の集団が巣状に点在性に、または孤立した幹細胞が散在してみられた。充実部中の小型腺管を形成する腺上皮細胞でも幹細胞がみられ、管状部では基底側の筋上皮細胞の層に幹細胞が存在していた。PAの特徴である、細胞外基質との関係では、粘液様・軟骨様・硝子様の基質に混在するmixed appearanceを示す腫瘍細胞ではほとんどがCD44に陰性であった。以上の結果をAdCCでの癌幹細胞と比較すると、PAでは含まれる腫瘍幹細胞の密度はAdCCより低く、良性腫瘍としての生物学的態度を反映している。充実部中に含まれる小型の腺管をなす腺上皮にも陽性細胞がみられ、PAではAdCCより充実部中の腺管形成が多いことに関連している。細胞外基質と腫瘍幹細胞との関係では、AdCCでは細胞外基質に接する部位に癌幹細胞の密度が高いこととは対照的に、PAではほとんどなかった。唾液腺腫瘍での細胞外基質は腫瘍幹細胞の微小環境(ニッチ)の形成に関係していると考えられるが、AdCCの細胞外基質は腫瘍幹細胞の保持・活性化に多大に関与し、PAではその機能は低いことが考えられる。
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