研究概要 |
本研究では,SLPI(分泌型白血球プロテアーゼインヒビター)の口腔における産生細胞,産生誘導機序,口腔自然免疫における役割等について明らかにする.本年度は,昨年度の成果をもとに,Porphyromonas gingicalis感染によるGE1細胞(歯肉上皮細胞株)からのSLPI産生増強作用の詳細について検討した.その結果 1. P.gingicalis凍結乾燥全菌体(Pg-WC)(50μg/ml)あるいはリポ多糖体(Pg-LPS)(10μg/ml)を用いてGE1細胞刺激を行うと,GE1細胞の有意の増殖反応が観察された.しかし,500μg/mlのPg-WC刺激では有意の抑制がみられた. 2. GE1細胞をPg-LPS(10μg/ml)あるいはPg-WC(50μg/ml)で刺激すると,GE1細胞のSLPI mRNA発現が増強した(Pg-LPSではp<0.05,Pg-WCではp<0.01).この結果はreal-time RT-PCRによっても確認された. 3. Pg-LPS,Pg-WCによる刺激時間をかえ,GEI細胞のSLPI mRNA発現増強に与える影響を検討した結果,Pg-LPSでは6-12時間刺激で,Pg-WCでは12時間刺激で最大のSLPI mRNA発現増強が認められた. 4. P.gingicalis抗原刺激により炎症性サイトカイン(IL-6,TNF-αおよびIL-1β)の発現誘導が認められたが,いずれも刺激後12時間で認められたことから,GE1細胞のSLPI mRNAの発現増強は,誘導されたIL-6による二次的な作用ではなく,p.gingicalis抗原による直接的な反応であることが強く示唆された. これらの結果より,歯肉上皮細胞がSLPI産生細胞の一つとして機能していること,また,歯肉上皮細胞からのSLPI産生はp.gingivalisの感染刺激を通して反応性に増強されることが強く示唆された.
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