当該研究の初年度にあたる平成21年度は、完全口蓋裂のみを発症するC57BL/6J系統のTGFβ3ノックアウトマウスのホモ胎児の口蓋裂を不完全口蓋裂へ軽症化させるため、妊娠母獣へのより効果的なDNAメチル化酵素阻害剤の投与方法、投与量などの投与条件の探索を行った.投与する薬剤は口蓋突起の器官培養法を用いた予備実験で効果が認められたRG108をin vivo投与実験に使用して、TGFβ3ノックアウトマウスの口蓋裂軽症化効果を検討した。RG108は母獣および野生型、ヘテロ胎児への副作用がまったく認められない低濃度単回投与(腹腔内投与)で口蓋裂軽症化の奏功率が約18%であった。一方、同量の経口投与や体内留置型浸透圧ポンプによる持続投与ではいずれも無効であることが確認された。そのため、現在は腹腔内投与法に焦点を絞って投与量は増やさないで2回投与法で投与時期をすこしずつ変えて、奏功率のさらなる向上を目指してin vivo投与実験を継続している. また、並行してDNAメチル化酵素阻害剤の投与が口蓋突起の癒合に必要な口蓋突起内側上皮細胞(MEE細胞)の最終分化能力、特に上皮-間葉形質転換能力にあたえる影響を独自開発したin vitro解析システムを用いて解析した。その結果、DNAメチル化酵素阻害剤はMEE細胞の上皮-間葉形質転換能力を劇的ではないものの若干、向上させることが判明した。このin vitro解析システムにより、同時にDNAメチル化酵素阻害剤に併用して口蓋裂軽症化作用がある候補薬剤の探索を行った結果、EGFR(上皮成長因子受容体)特異的チロシンキナーゼ阻害剤(化合物名:ゲフィチニブ)が有効であることが判明した。そこで、現在、妊娠母獣にDNAメチル化酵素阻害剤と併用投与を行ってTGFβ3ノックアウトマウスの口蓋裂軽症化効果がさらに向上するかどうかの検証実験を進めている.
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