平成22年度の研究では、完全口蓋裂のみを発症するC57BL/6J系統のTGFβ3ノックアウトマウスのホモ胎児の口蓋裂表現型を不完全口蓋裂へより効果的に軽症化させることを目的として、ヘテロ個体の雌雄を交配して妊娠13日から同15日の母獣へDNAメチル化酵素阻害剤に加えてEGFR(上皮成長因子受容体)特異的チロシンキナーゼ阻害剤(化合物名:ゲフィチニブ)を腹腔内へ併用投与し、その相加または相乗効果の有無の探索を行った.その結果、それぞれの薬物は胎児死亡を起こさない投与量と投与回数で単独で投与した場合、DNAメチル化酵素阻害剤(RG108)投与群で不完全口蓋裂(軽症化)が18.1%(n=17/94)の頻度でみられたのに対して、ゲフィチニブ投与群では不完全口蓋裂は21.6%(n=11/51)であった。しかし、RG108とゲフィチニブとの併用投与群ではこれまでに口蓋裂表現型の軽症化率の向上は認められておらず、それぞれの薬剤は互いに独立した機序でTGFβ3ノックアウトマウスの完全口蓋裂を軽症化させている可能性が示唆された。 また、RG108投与群とゲフィニチブ投与群の胎齢15日~同16日のホモ胎児について口蓋突起の癒合状況を調べたところ、胎齢18日とほぼ同程度の頻度で不完全口蓋裂(軽症化例)が認められたため、口蓋突起の癒合後破裂が起こっている可能性はなく、不完全口蓋裂への軽症化はhit and miss fashionであることが判明した。同調査で得られたホモ胎児の癒合途上の口蓋突起についてTUNEL法でアポトーシスを起こしている細胞の検出を行ったところ、消失しつつある口蓋突起内側縁上皮細胞(MEE細胞)にアポトーシスはほとんど認められず、上皮細胞の移動および上皮-間葉分化転換によりMEE細胞が消失して口蓋突起が癒合することが示唆された。
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