本年度は、妊娠母獣への腹腔内投与を介した胎児へのDNAメチル化酵素阻害剤の暴露が次世代に影響を及ぼす可能性の有無について、下記の2項目に焦点を当てて調査した。 1)胎児へのDNAメチル化酵素阻害剤の暴露が次世代の口蓋突起内側縁上皮(MEE)細胞の最終分化能力に与える影響の調査 妊娠母獣の妊娠13日~15日にDNAメチル化酵素阻害剤を投与(RG1085mg/Kg/day、3日間投与)し、出産させた仔を8~10週齢まで育てたC57BL/6J系統Tgfb3+/-(ヘテロ接合体)の雌雄を交配して、DNAメチル化酵素阻害剤を投与せずに妊娠14日で胎児を取り出し、単一口蓋突起回転浮遊培養法でMEE細胞の最終分化能力(MEE細胞の消失能力)を組織学的に解析した。その結果、野生型(Tgfb3+/+)胎児の口蓋突起の最終分化能力は、無処理群の野生型胎児と比べて特に変化が認められなかった(n=12)。本研究で用いたDNAメチル化酵素阻害剤RG108の投与は次世代のMEE細胞の最終分化能力に何ら影響を与えないことが判明した。 2)胎児へのDNAメチル化酵素阻害剤の暴露が次世代胎児への口蓋裂表現型に与える影響の調査 また、上記1)で胎児期にDNAメチル化酵素阻害剤RG108に暴露させて、8~10週齢まで育てたC57BL/6J系統Tgfb3+/-(ヘテロ接合体)の雌雄の残りを交配して妊娠18日で胎児を取り出して口蓋裂表現型を調査した結果、ホモ接合体(-/-)が呈する口蓋裂表現型は完全口蓋裂のみで、無処理群との差異は認められなかった(n=10)。 以上の結果から、本研究に用いたDNAメチル化酵素阻害剤RG108は胎児期に投与しても仔の成長や生殖に対する影響はまったくないことが判明した。
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