摂食行動に関連した種々の感覚情報が、美味しさを認知する上でどのような役割を果たしているかを調べるために、ヒトにおいて美味しさの認知に影響を与える感覚情報として、「身体のエネルギーバランス」「食材の味や物性」に加え、「食記憶などと関連した食物の口腔摂取前(認知期)に生じる感覚」「食べやすいか否か(運動の遂行がスムーズか)」の条件を変え、条件間で「主観的な美味しさ」「認知に関連した大脳皮質活動」や「摂食行動様式」を比較することで、ヒトにとって「美味しく食べる」ためには、どのような感覚情報が重要であるかを調べることを目的に実験を行っている。今年度は前年度の研究で咀嚼に伴う種々の感覚認知に重要な役割を果たしていると考えられる右側前頭前野背側部について健常人を対象として種々の味覚刺激に伴う脳活性化状態を近赤外線光トポグラフィー(NIRS)を用いた非侵襲的に記録した。その結果、甘味刺激により被験者間で活性の強弱はあるものの、右側前頭前野背側部の総ヘモグロビン濃度および酸素化ヘモグロビン濃度が高まることが明らかになった。反面苦味刺激により同部位の脳活性は減弱した。また、塩味と酸味については被験者間で応答様式が異なった。以上より右側前頭前野背側部の活動は味質およびその嗜好により影響を受け、摂食行動に伴う味覚認知に重要な役割を果たしていることが示唆された。あわせて味覚刺激およびそれに伴う高次脳活動が嚥下誘発に及ぼす影響を健常成人において評価するシステムを構築し、現在も実験を継続している。
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