摂食行動に関連した種々の感覚情報が、美味しさを認知する上でどのような役割を果たしているかを調べるために、ヒトにおいて美味しさの認知に影響を与える感覚情報として、「身体のエネルギーバランス」「食材の味や物性」に加え、「食記憶などと関連した食物の口腔摂取前(認知期)に生じる感覚」「食べやすいか否か(運動の遂行がスムーズか)」の条件を変え、条件間で「主観的な美味しさ」「認知に関連した大脳皮質活動」や「摂食行動様式」を比較することで、ヒトにとって「美味しく食べる」ためには、どのような感覚情報が重要であるかを調べることを目的に実験を行っている。今年度は味覚が摂食行動にもたらす効果を調べるために、我々の研究室で開発し昨年度特許申請を行った「ヒト咽頭への電気刺激を用いた嚥下誘発装置」を用い、咽頭領域への各種味刺激が嚥下誘発に及ぼす影響を定量的に評価することを試みた。その結果、味溶液の溶媒となる水が電気刺激により誘発した嚥下反射の潜時を短縮すること、逆に塩味刺激は反射潜時を延長することを明らかにした。さらに「うま味」物質の一つであるグルタミン酸ナトリウムを塩味と混合することにより、塩味による反射潜時の延長効果が拮抗されることも明らかにした。このことは、スープや味噌汁など我々が日常摂取する液体物に含まれる塩味は嚥下誘発を抑制するが、それに「だし」であるグルタミン酸ナトリウムなどのうま味成分を加えることにより、認知される美味しさが増強されるだけではなく、嚥下誘発の観点からも有効であることが示された。
|