三叉神経中脳路核一次感覚ニューロン(MTNn)は、過分極時には末梢感覚受容器由来のインパルスを中継し中枢枝へ送る一次感覚ニューロンモード(PSN-M)、脱分極時には細胞体へのシナプス入力により生じるスパイクを中枢枝へ送る介在ニューロンモード(IN-M)という二種の機能モードを取り得る可能性が提唱されており、IN-M時には、細胞体に発現しているAMPA型グルタミン酸受容体チャネル電流(I_<AMPA>)が重要な役割を果たすと考えられる。しかし、末梢感覚情報を忠実に伝達するPSNとして機能する際には、シナプス入力による撹乱を排除する必要がある。従って、過分極状態でのPSN-M時には、AMPA入力が無効化されている可能性がある。MTNnには、過分極により活性化されるhチャネル電流(I_h)が極めて豊富に発現していることから、I_<AMPA>がI_hによりどの様に修飾されるかについて検討した。 保持電位を過分極させるに伴い内向きのI_<AMPA>は増加したが、-80mVより過分極側ではI_<AMPA>の内向き成分は減少に転じ、内向き成分の減衰相に続く外向き成分が出現した。8-Br-cAMPを灌流投与しI_hを活性化しても同様の変化がみられた。Cs^+を灌流投与しI_hを抑制すると、I_<Glu>の内向き成分は増加し、その減衰相に続く外向き成分は消失した。従って、I_<Glu>はI_hの振幅に対して負の依存性を持つことが確認された。静止膜電位を基線電位とする電流固定下でAMPAをパフ投与すると、高頻度バースト発火が生じたが、8-Br-cAMP灌流中はバーストが抑制された。その後、Cs^+を投与するとバーストが回復した。従って、I_hの活性化がI_<AMPA>を介する興奮性シナプス入力を強力に無効化していることが強く示唆された。これらの結果から、MTNnではI_hによりI_<AMPA>が抑制されることで、PSN-Mを維持している可能性が示された。
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