研究概要 |
三叉神経中脳路核一次感覚ニューロン(MTNn)は、過分極時には末梢感覚受容器由来のインパルスを中継し中枢枝へ送る一次感覚ニューロンモード、脱分極時には細胞体へのシナプス入力により生じるスパイクを中枢枝へ送る介在ニューロンモードという二種の機能モードを取り得る可能性が提唱されており、後者では細胞体に発現しているAMPA型グルタミン酸受容体チャネル(AMPARCh)が重要な役割を果たすと考えられる。MTNnにおいて、膜の過分極や8-Br-cAMPの投与によってhチャネル(hCh)電流を活性化させると、その程度に応じてAMPARChを介する興奮性シナプス入力が無効化される可能性を前年度までに示した。これに加え、8-Br-cGMPの投与によって漏洩K^+電流(主にTASK1電流)を活性化しても同様のAMPA電流抑制が生じ、また、細胞外灌流液のK^+濃度を上げてh電流の反転電位を脱分極側へシフトさせると、通常の細胞外灌流液中ではAMPA電流の抑制効果がほぼ消失した-40mV付近においても、明らかなAMPA電流の抑制が認められることを見出した。 当研究室では以前に、MTNnの細胞膜微絨毛様突起部において、hChとNa^+/K^+ポンプがNa^+マイクロドメイン(NaMD)を介して機能協関していることを報告しており(Kang et al., J.Neurosci., 2004)、同様にAMPARChもhChとNaMDを共有している可能性が想定される。その場合、基線電位においてh電流が持続的に活性化された状態では、基線電流にはh電流が含まれており、グルタミン酸(またはAMPA)の結合によりAMPARChが開口し内向きNa^+電流が生じると、NaMD内のNa^+濃度は急激に上昇し、その結果h電流の反転電位は過分極側へシフトして駆動電位が小さくなることで基線電流を形成していた内向きh電流は減少し、その結果、内向きAMPA電流はh電流の減少分だけ外向きへ押し戻され、見掛け上のAMPA竜流が減少すると考えられる。実際、MTNnの微絨毛様突起部には、グルタミン酸作動性興奮性シナプスとみられる非対称性シナプスが電子顕微鏡的に観察されている。 以上のことから、MTNnの微絨毛様突起部では、膜の過分極やPKA活性化を生じる入力系によってh電流が活性化されると、NaMDを介してAMPA電流が抑制され、興奮性シナプス入力が減弱することが示唆された。
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